フリーライター&フォトグラファー 林 拓郎さん「北海道・旭岳周辺のランニングでテスト!スマートウォッチはアウトドアの何を変えるのか?」- 後編

フリーライター&フォトグラファー 林 拓郎さん「北海道・旭岳周辺のランニングでテスト!スマートウォッチはアウトドアの何を変えるのか?」- 後編

hayashi_8

北海道・旭岳周辺のランニングでテスト!スマートウォッチはアウトドアの何を変えるのか?- 後編

 

スノーボードやスキー、アウトドアの雑誌を中心に活躍するフリーライター&フォトグラファーの林 拓郎さん。滑ることが好きで2014年に首都圏から北海道へ移住し、旭岳山麓の町・東川町にアウトドアショップ「Transit」をオープン。最近は山を走るトレイルランニングの魅力に開眼。

今回はAmazfitのランニングモデル「Cheetah Pro」のレポート後編です!

前編はこちら >

 

Contents [後編]

・どんな機能を求めるか? 目的の柱を立てる

・実際に走るまでに気付いたこと

・さっそく走りに出てみた

・計測データにテンション上がる! [後編]

・使ってわかった便利機能 [後編]

・結論 [後編]

 

 カタログデータによれば、Cheetah Proは最短26時間、最大14日間稼働可能なバッテリー容量を備えている。試しにGPS高精度でディスプレイ輝度をオートに設定。その他、もしかしたらバッテリーの減りが早いですよ~的なアラートをすべて無視して、使いやすそうな状態にセットしたCheetah Proで山を走りに行ってみた。

目的地は北海道のどまんなか、大雪山の旭岳だ。

 

hayashi_009

ロープウェイからの景色は爽快そのものだったが、標高1,600mの姿見駅についてみれば、噴気もけし飛ぶ爆風。9月上旬ながら気温はひとケタ代。標高2,291mの旭岳山頂は体感温度がマイナスだったそうで、短パンおじさんは引き返して正解

 

 まずは旭岳ロープウェイの山麓駅に到着した時点でバッテリー残量は96%。そこから山頂を目指して走り出したものの、この日の稜線では風速15m/s近い風が吹き、頂上付近は20m/sを超えそうな勢い。こりゃ走っても楽しくないなと8合目で引き返した。山麓駅に到着してスタートから約1時間20分を経過したところでバッテリー残量は90%。この減り具合なら、16時間活動したとしてもバッテリーは30%近く残っている、ということになる。

 

 じゅうぶんだ。なにしろスマートフォン時代のきょうび、登山にモバイルバッテリーは必携。ちょっとしたトレランでも小型のバッテリーは持っている。節約すれば14日間もつかもしれないが、充電が難しい極地にいくわけではない。せっかく便利な機能なら必要なものは必要な精度で使って、バッテリーが減ったら充電すればそれでいいじゃないか、というのが個人的な考えだ。

 

 ちなみに旭岳を断念したのでフィールドを低山に切り替えて、この日は15kmを走った。それでも最終的なバッテリー残量は78%とたっぷり。日常的にランを楽しみ、ちょっとしたウォーキングをし、24時間心拍数のデータを撮り、睡眠分析をする、といった使い方なら5~7日で残り30%といったところ。感覚的には週に一度、1時間程度充電すれば必要な電力の補充はじゅうぶん。

 

hayashi_10

hayashi_11

低山は風もなく、初秋の快適な散策を楽しむ。途中、旭川市内を一望する展望台でひとやすみ。真正面には今朝ほど撤退した旭岳が見える

 

hayashi_12

自分のランをデータで俯瞰しながら、心拍数の推移をチェック。まぁ、どっちにしても気持ちいいペースでしか走らないので、心拍数が上がりすぎるなんてことにはならない。Cheetah Proには途中、道を間違えたので引き換えした様子が残されている

 

 しかも充電はUSB経由で、マグネット式のアダプターが正しい位置に自分から吸い付いてくれるという簡単さ。細いプラグを神経質に刺す、といった煩わしさもない。こんなに充電も簡単だし、事実上バッテリーは無限じゃん、というのが個人的な印象だ。

 

hayashi_13

充電アダプターはマグネット式、くっつく向きにしかくっつかない!という間違いのない設計のうえ、汚れやすいCheetah Pro側の端子のほうが大きいので掃除もしやすい。アダプターの反対側は一般的なUSBのType-A端子

計測データにテンション上がる!

 さてお待ちかねのデータ収集だ。これについては数ヶ月をかけて実際にランのパフォーマンスがどう変化していったかをレポートしたいところだが、まずは短期の印象だけお話しておきたい。

 

PAIというゲーム的指針

 Cheetah Proが表示するいくつかのデータのなかでも、テンションを上げてくれるのが、Amazfitが取り入れている「PAI」だ。

 

hayashi_14

5kmを走ってPAI 48を獲得

 

 これは年齢や性別、安静時の心拍数、過去7日間の心拍数データなどをもとにしたアクティビティの追跡指標。PAIは心拍数を上げるアクティビティやスポーツをこなすことで獲得でき、その数値を100以上に保つことで、心肺機能と心臓の健康が改善されるというものだ。つまり、いっぱい運動するとPAIの数値がどんどん上がっていくのだ。ちなみにCheetah Proを入手して最初の5kmランではPAI 42、三日目に走りに行ったトレランではPAI 56を獲得した。

 

 がんばった分だけPAIの数値が上がるのはゲーム感覚で楽しいし、そろそろ体を動かしたいなと思っていると本当にPAIがスルスルと下がっている。このあたりのPAIと身体感覚のシンクロ具合は「なるほど!」という感じがして興味深い。

 

 また、このPAIは過去7日間のデータを集計している。つまり1週間のうちに有効な運動をある程度すればOK。がんばって毎日運動しなくても、時間のあるときにできる運動をしてみたらいいんじゃない?的なフリースタイル感満載の指標なのだ。

 

 毎日決まった時間に出社、といった定期的スケジュールで動いているわけではないフリーランスライターにとって、このフレキシブルなアクティビティ管理は非常に快適。やれるときにやって、PAIをどんどん貯めるのだ!と走ることへのモチベーションがどんどん上がっていくのが楽しい。

 

hayashi_15

PAIは過去1種間の集計で計算される。グラフを見ると、今日だけ頑張ったことがよく分かる。締切が続いていたので仕方なかった。それでもZEPPアプリはやさしく励ましてくれるのだ

 

プライベート指導のZEPPコーチ

 ZEPPコーチはZEPPアプリに含まれている機能のひとつ。疲労レベル、フィットネスレベル、トレーニングステータスからAIが日々の運動状態を分析して、パフォーマンス向上のための運動負荷などをガイドしてくれるというAIトレーニングコーチだ。

 

 コースは「心肺機能を向上させる」と「ランニングレベルを向上させる」の2種類。心肺機能の方は週あたりの運動回数、平均運動時間、平均運動強度などを設定し、トレーニングできる日、コーチングの開始日を設定すれば、Cheetah Proの画面に日ごとの運動メニューが表示される。

 

 ランニングレベルの方は1週間あたりのランニングの距離、目標とする距離、その目標をいつ達成したいか(つまりレース本番はいつか)、完走か順位向上かといった目標達成のレベル、トレーニングできる日と週に一回高強度トレーニングを取り入れることができる日などを設定すれば、日ごとのトレーニングメニューがCheetah Proに表示される。

 

hayashi_16

 

 このZEPPコーチで嬉しいのは、週の計画を早めに達成した場合にはきちんと休養日を作ってくれること。さらに疲労度などさまざまな要素からオーバートレーニングになりすぎないように注意してくれる。楽しいからといって調子に乗っていると、いろいろ傷害をひきおこしてしまうのがランニングおじさんの常道だが、Cheetah Proにかかると「ホントに走る?」的なメッセージが表示されるのだ。これはもう、ひたすらに優しく、ありがたい。

 

 目標を変更する場合には、ZEPPコーチの計画をいったん終了して、イチからプランを立て直せばOK。その都度、AIコーチがそれまでのデータに基づいた最適なトレーニングプランを作り直してくれる。もちろん、個々の体調や心肺機能に合わせた、完全パーソナルのオリジナルプランなうえ、トレーニングの進行中もパフォーマンスの推移に合わせてトレーニング内容は更新されていく。

 

 なにしろCheetah Proは心拍数だけでなく呼吸数や血中酸素濃度、VO2Max(最大酸素摂取量)なども計測しているうえに、ランニング中の速度や速度変化などもデータとして持っている。これらをベースに、目標に向かってもっとも効果的で安全なトレーニングメニューを作ってくれるなんて、北海道の片田舎でひとりで走っていたら絶対にかなわない夢なのだ。

 

 まだまだコーチングをスタートしたばかりで、目に見えるような成果には繋がっていない。が、まずはハーフマラソンを目標にして、コーチの助言に従ってみたいと思っている。

 

hayashi_17

今日はこのくらいの運動するよ!と提案してくれ、今週の予定はこれくらい消化してるよ!と教えてくれる。さらに休養日には、今日は体を休める日ですよ~的なメッセージが表示されるので、心置きなくデスクワークに集中できるのだ

 

使ってわかった便利機能

 最後に、あまり意識していなかったけれど使ってみたらものすごく便利だった機能を紹介しておきたい。

 

・毎日アレクサ

 スマートフォンとBluetoothで繋がっていることが前提だが、Cheetah Pro経由でアレクサ(※)を使うことができる。っていうか、腕にアレクサがあるという状況が、こんなにも未来感溢れるものなのか!と少年の夢がかなった気分だ。ラーメンを茹でながら「タイマーを3分に設定して」とか、布団を敷きながら「明日の最低気温は?」とか、縦走の計画をたてながら「週間天気予報は?」などなど。知りたいことを話しかければ時計が答えてくれる。もちろん複雑な質問にはまだまだ答えられないけれど、Cheetah Proが来てから、困ったらアレクサ、になっている。

※クラウドベースの音声アシスタント。アレクサに対応している。

 

hayashi_18

時計に向かって質問したら答えてくれるなんて、どんだけ未来なんだ!

 

・自動で計測開始

 運動の設定をしなくても、ただ歩いているだけで自動的に運動記録モードに移行。運動の記録漏れがなく、動いた分だけPAIが増えるのは無条件に嬉しい。

 

・スマホのシャッターをコントロール

 Cheetah Proから、ブルートゥースで繋がっているスマートフォンのシャッターを操作することができる。走った先での自撮りで、笑ってしまうくらい便利だった。

 

hayashi_19

iPhoneを3秒のセルフタイマーにして、Cheetah Proでシャッターを起動させて撮る! 自撮りがものすごくラクだった

 

ディスプレイに指紋がつきにくい

 まったくと言っていいくらい、ディスプレイに汚れがつかない。使い始めて数週間だが、指紋を拭いたことは一度もないかも。加えて、いまだにディスプレイにはまったく傷がついてない。

 

・スピーカーが便利

 小さいながらもウォッチにスピーカーがついており、運動中に心拍数、スピード、消費カロリーなどを音声で知らせてくれる。ちなみにアレクサの返答も、このスピーカーから聞こえてくる。

 

・他のアプリと連携

 アップルヘルスやグーグルヘルスなどと連携可能。Cheetah Proのデータを取り込むことができるので、Cheetah Pro導入以前のデータとも照らし合わせることができる。

 

まだまだ試せていない機能が山盛り!

 音楽転送、地図表示、電話通話、会員カードなど、まだまだ試せていない機能がものすごくたくさんある。

 

結論:スマートウォッチはスポーツの喜びを引き寄せ、アウトドアの質を高める

 Cheetah Proを使ってみて実感したのは、主観的だった自分の体調をより第三者的な目で見ることの効果だ。疲れが抜けないから走る気がしない、身体がなまってきたから走りたいなど、走るか休むかは主観的な肉体感覚だけで決めていた。もちろんそれでいいはずだ。競技ではなく、あくまでも楽しみのために走る以上、気持ちに正直の100%わがままで悪いはずがない。

 

hayashi_19

Cheetah Proにはこんな表示も。そうですか、そのくらい必要ですか、と自分を振り返るよい機会になる。

 

 その一方、たとえ競技性がなくとも、走ることにもスポーツの喜びが含まれる。できなかったことができるようになる、同じ動きでもより納得できる感覚でできるようになる、といったパフォーマンスの向上は、あらゆるスポーツにおける喜びの本質だ。そして走ることにおいては速さや距離の伸びこそが、パフォーマンスを測る主なものさしだと思っている。

 

 であるなら、個々の体質だけでなく、その日の体調までモニタしながら、ムリのないトレーニングをアシストしてくれる機能は、ダイレクトに走りの喜びを引き寄せることに繋がるはずだ。Cheetah Proを使って、あらためて感じたのはそのことだ。

 

 そもそも自分がスマートウォッチに興味を持ったのは、趣味のランニングのためだ。スマホを持って走れば走ったルートは記録されるし、日々の記録を重ねることで、走る距離が伸びたり、タイムが縮んだりという変化を知ることはできる。けれど自分の走りを、もうちょっと深いところまで理解したいよなぁ、と思ったときにはどうすればいいのだろうか。

 

 それこそ走る力をつけたいならもっとスピードを出せばいいのか、さらに長い距離を走ればいいのかがわからない。あくまでも個人の楽しみであって、大会に出場しようとは微塵も思っていないし、自分をランナーだとも思っていない。自分のペースで走るのが好きなので、人と走ることもない。ただただヒマを見ては近所や低山をヘラヘラ走っている。そんな自分がスマートウォッチに求めているのは「マイペースのまま、パフォーマンスの向上の手がかりをさがすこと」ではないかと思い至った。

 

hayashi_20

 

 そのためには日々の記録をきちんと残して、立体的に記録を見直さないといけないはずだ。が、そもそもそれらの記録をどう解釈すればいいのかもわからない。そう考えていただけに、筆者にとってCheetah Proを導入する意味は、ZEPPコーチの利用にあった。体調をモニタし、サボり過ぎをたしなめ、オーバートレーニングを防止しながら、天気や現在位置といった情報を表示してモチベートをサポートしてくれる。これまで以上にアクティビティの質を深めるために体調を俯瞰し、AIの助けを借りてベストなトレーニング方法を導き出す。Cheetah Proはそのためのデバイスなのだ。

 

 Cheetah Proはランニング特化型のスマートウォッチだが、サポートする運動の種類は150以上に及ぶ。その中にもCheetah Proがフィットするアクティビティはまだまだあるはずだ。このデバイスが、登山やバックカントリースノーボーディングという他の趣味をどう変えてくれるのか。それらを楽しみにしながら、雪が降るまではランの喜びに浸りたいと思っている。

 

hayashi_21

 

写真・文/林 拓郎

 

林 拓郎

フリーランスライター・フォトグラファー。バイク雑誌編集者を経て二輪雑誌のフリーライターへ。90年代半ばにスノーボードに出会ったことから、活動のフィールドを雪山へとスイッチ。撮りながら書くというフットワークの軽さをいかし、雪の現場を精力的に取材。執筆・撮影を行う。現在は北海道旭川市に在住し、ライター業の傍らで、隣町である東川町にてアウトドアショップ「Transit」を営む。