スマートウォッチのイメージを変えた、Amazfit T-Rex 2の存在
日本山岳ガイド協会認定の山岳ガイドである水野隆信さん。2020年秋にAmazfit「T-Rex」シリーズが日本に上陸してから、いち早く本格的にフィールドで使い始め、数々の場面でそのよさを体感してきた人物である。今回はその魅力をお聞きした。
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1年を通じ、山を仕事場にしている水野さんの活動
――― まずは水野さんのおもな活動内容をお聞かせください。
僕は山岳ガイドを仕事にしていて、1年を通じておもに少人数制のプライベートツアーでお客様を山へ案内しています。一般登山道を歩く登山も行ないますが、バリエーションルート(※1)、冬はアイスクライミング、バックカントリースキーなど、山を幅広く楽しむ中〜上級者向けアクティビティを行なうことが多いです。
※1:一般登山道は道や木道、階段、登山者が迷わないよう標識などが整備・設置される。バリエーションルートは基本的に道標やマーキングがなく、登山地図に掲載がない技術的に困難なルートをおもに指す。ロープ等を用いるクライミング技術が必要な変化に富んだ場面も多数ある。
――― 専門誌でもお名前を拝見します。
ありがとうございます。『山と溪谷』や『PEAKS』といった登山雑誌で連載など持たせてもらっています。そこでは基本的な登山のノウハウはもちろん、テント泊山行のテクニック、専門的なロープワークの解説などですね。あと仕事柄、山の活動にまつわるさまざまな道具を日々使いますので、ギアやウエアの解説をすることもあります。
――― どっぷり仕事で山漬け、という感じですね。
そうですね! ただ9割は仕事ですが、1割はプライベートでフィールドに出るようにしています。安全第一でお客様を案内するガイド業とは分けて、クライミングでもバックカントリースキーでも自分を追い込んで限界を感じる時間を持たないと、いわゆる“庖丁の切れ味”が鈍くなってしまう。プライベートでは困難なところにも行くし、精神的にも打ちのめされるし、怖い思いもする。でもそれ、重要なんですよね!
プライベートで訪れたスイス・ブライトホルン(標高4,164m)フルトラバースルートにて
――― プライベートの山でももちろんAmazfitは着けておられる?
もちろん。それまではG社やC社のアウトドアウォッチを使っていましたので、スマートウォッチとして他社製品との比較はできませんが、活動の場面場面でリアルに役立っています。
現在使っているのは「Amazfit T-REX 2」。その魅力は
――― 水野さんの活動で「T-Rex2はここがいい!」という点をぜひお聞きしたいです。
まず僕が魅力と感じるのは「バッテリー」の持ちのよさ。T-Rex2は最大24日間の超ロングバッテリーを搭載しています。ただこれはどの機能もほぼ使わない状態の最大値という感じ。電力消費の大きなGPS機能をオフにしたり、低照度設定にしておけば、普通に使って2週間くらいはもつと思います。連続して山に入るような日が続いてもシビアに充電を気にしなくていいんですよね。他のアウトドア仕様のスマートウォッチはもって1週間とか、数日とかと聞きますが、それではどうしても使うのをためらってしまう。
―――水野さんにとってもっともT-Rex2が役立つ季節、場面などはどうでしょうか。
じつは釣りでT-Rex2が便利なんですが、その話はあとにしますね。その釣りをのぞいて、この時計がフルに機能を発揮するのは僕の場合では「冬」なんですよ。とくに厳冬期のバリエーションルートやバックカントリースキー(※2)。吹雪によって周囲がまったく見えなくなる「ホワイトアウト」という天候に遭遇することもめずらしくありません。
※2:自然の山を歩いて登り、滑るスポーツ。安全管理がされているスキー場ではないため、リスクマネージメントなどを自ら行なう必要があり、専門のプロガイドを伴って入山する人が多い。
―――右も左も見事に真っ白、という場面ですね。
そうです。そういうとき、T-Rex2から得られる標高や気圧、コンパスという目に見える情報が非常に重要になってきます。普段なら目を閉じても歩けるような熟知した場所でも、どっちの方向が正解なのかまったく分からなくなることがありますから。
―――スマートウォッチではない、アウトドア仕様の腕時計にもその機能は備わっていますが、それ以上に……ということでしょうか?
そうです。このT-Rex2がすごいのは、連動しているスマホの「Zepp」アプリに歩く予定のルートのGPSデータをあらかじめインポートしておけること(※3)。行動中にT-Rex2のディスプレイで自分がルート上に正しくいるかどうか確認できるナビゲーション機能があるんですよ。そしてそのルート上から大きく逸脱するとアラートがなります。その機能を利用すれば、ホワイトアウトのさなかでも、いつでも手元のT-Rex2で自分がいるべきところにいるという安心感が得られるんですよね。それだけでも絶対的に心持ちが違う。
※3:GPSデータはGPX形式のほか、TCX形式、KML形式でもインポート可能。YAMAPやヤマレコなどサードパーティのサービスからダウンロードできる(会員登録が必要)。
※この写真はインタビュー時のものではなくイメージです。
―――冬山、雪山での危険も回避できるということでしょうか。
たとえば、冬のバリエーションルートでは予定ルートから数メートルずれただけでもまずいことも多々あります。クレバスに落ちてしまう、予定外の谷に滑り降りてしまう……などですね。だから冬は歩きでも滑りでも予定しているルートをとにかく外さず、正確に帰ってきたいものなんです。
バックカントリースキーの速度にもナビゲーションが対応
―――歩く速度ならわかりますが、スキーの滑走速度はなかなかです。それにも対応しますか?
そうなんですよ、そこがまたよくて。ほぼリアルタイムで示してくれますね。そしてルートを外れると滑っているなかアラートが鳴ります。ルート逸脱アラートは20m、50m、100m、オフの4種類から選ぶことができます。
―――それはすごいですね。
ホワイトアウトしているような状況では時計を悠長に触っている場合じゃないこともあるので、ルートが少しずれてアラート鳴りっぱなしでも、分かっている場所であれば安全圏までとりあえず滑り下りることもあります。アラートは音だけを切って、バイブレーションだけ残すこともできます。
―――極寒の環境下でGPSを動かす場合、バッテリーはどうでしょうか?
Amazfitの公称値では、T-Rex2はマイナス30度の超低温時に低温モードに切り替えた場合、14日間バッテリーが持続すると書かれています。GPSをオンにした場合で10時間。ただそんな氷河期のような気温のなかで活動することはなかなかないですけどね。同じT-Rex2を持っている人と行動を共にするようなときは、ふたりとも同じGPS機能を使う必要はないので、僕のGPSを重要な場面まで切っておいて、バッテリー消費を抑える使い方をすることもあります。
――― ではこのディスプレイサイズはどうでしょうか?
そうですね。T-Rex2のディスプレイ上では線による簡易的なナビゲーションなので、広いマップで縮尺を変えるなどして詳しく確認したい場合は、連動しているスマホのZeppアプリをみます。ですが、手元でサッとルートを外していないかチェックできたり、音やバイブレーションでアラートを認識できるというのは本当に便利なんですよ。
冬季グローブ装着時の操作性のよさ
それから、あともうひとつ雪山で便利だなと思う機能があります。
―――それもぜひお聞かせください。
アウトドア仕様とうたわれる大半の腕時計には「ロック機能」が付いています。たとえば高度計を出したままの画面にしておく……という使い方などですね。ただ、その解除に手間取って、使いたい別の機能をすぐ使えない製品もあるわけです。なかにはボタンをネジのように回さないと解除できない時計もあるんですが、分厚いウィンターグローブを着けたままその操作は確実にできないんですよ。その点、このT-Rex2はボタンを長押しするだけの簡単操作。グローブの上からでも分かり、ストレスがありません。
―――なるほど……。ちなみにタッチパネルの操作はグローブ装着時はできないですよね?
それはさすがにできません。ただ、他の時計ではグローブを外してロックを解除した上で、さらに見たい表示を出すというプロセスが必要になります。そもそも腕時計は頻繁に見るものですが、見るまでの時間は極めて短くしたいもの。手順がひとつでも少ない方が欲しい情報までの時間が短縮されますので、シビアなフィールドではありがたいんですよね。
凸形状がわかる4つの物理的なボタンで、冬季用の分厚いグローブをはめていても操作ができる
物理的な構造から紛失も防いでくれる
――― この写真を拝見すると、山では時計はウエアの上から腕につけられるようですね。
ああ、これはT-Rex2のために撮ったんですよ(笑)。普段僕ら山岳ガイドは雪山では時計を腕に着けることはほぼありません。岩に当たると傷つくし、衝撃の強さによってはディスプレイが割れてしまう可能性もある。分厚いグローブ装着のジャマにもなる。ですので、バックパックやクライミングハーネスに取り付けることが多いです。ただ……、活動柄これまで腕時計といえばほとんど1年も経たないうちに落としてしまっていました。
――― ええ! 山岳ガイドあるあるなんでしょうか?
そうです。それがAmazfitになって一度も落としたことがない。これはすごいことです。
残雪期の北穂高岳にて。
――― それは明確な理由があるのでしょうか。
あります。僕が使っているT-Rex2はシリコン製バンドを留めるループがふたつ備わっています。だいたい腕時計はバンドの小さな穴に金属製のピンを通して、バンドエンドをひとつのループで留める構造だと思いますが、このT-Rex2はそのループがふたつあるんですよ。ひとつは固定されていて、もうひとつは自由に動かせるものです。
――― それによって落ちづらい。
そうです。ふたつのループを通すことで摩擦係数が単純に増すわけですから、何かをきっかけにスルリとバンドが完全にループを抜け落ちる頻度が減るということです。本当に些細なことなんですが、山やアウトドアをよく分かっている人が作っているとしか思えない工夫ですよね。
水辺の環境でも使いやすいT-Rex2
――― ところで、さきほど「釣り」についても少し触れられていましたが、水野さんは釣りもされるんですね。
じつは僕、もうひとつの顔というか、フィッシングガイドでもあるんですよ。小学生からフライフィッシングを長年やっていまして、ご依頼があればガイドとして北アルプスや八ヶ岳、東北などの山岳エリアの源流、そのほか湖などのポイントへお客様を案内したり、講習会を行なったりしています。
――― そうだったんですね!!
T-RexシリーズはAMOLEDという有機ELディスプレイを使用し、コントラストが高く晴れていても見やすい。写真は日本某所で釣り上げたレインボウトラウト。
それで、釣りでは気圧の変化がとても重要な情報なんですよね。たとえば夏だと、渓流のような淡水では高気圧が張り出して好天が続くと、エサになる水性昆虫などの動きが悪くなるんですよ。するとそれらをエサにしている魚の動きも活発でなくなり、いわゆる“食い渋り”という状況が起こります。
――― そうなんですね。
そんなとき気圧が下がってくるとエサの動きがよくなり、また魚たちも低気圧下では動きが活発になりますから、エサの豊富な瀬に出てきてエサを捕食するわけです。そのタイミングが狙い目なんです。できればお客さんにも時計を買ってもらって、T-Rex2で気圧を確認しながら釣ると……。
―――釣れるんですね!
そうです! T-Rex2は表示として非常にわかりやすく気圧の情報を出すことができます。肌感覚で気温変化など気圧の推移を感じながら、T-Rex2のデータで根拠を得る。とても分かりやすいし、繰り返すうち五感で感じたことが正しいという自信にもつながっていくんですよね。しかも、濡れた手でもディスプレイのタッチ操作が効きますから、水辺のアクティビティにもとても便利です。
シャワークライミングのようなずぶ濡れになる状況下でも画面スクロールができるのもいい。写真は「T-Rex Ultra」
――― つまり、仕事もプライベートもT-Rexを手放せない、ということですか。
そういうことになりますね(笑)。最新機種の「T-Rex Ultra」は最近手にしたばかりで、まだ10日間くらいしか使っていません。だから23年後半の冬シーズンに向けて、操作の練習をせねばと思っているところです。
――― 慣れた水野さんでも練習が必要なんですね。
いやいや、家で触れるのと、実際に現場で直感的に使うのとは全然違いますから。T-Rexは2もUltraも精密機械であることに違いなく、いろんな機能が詰まっているので、昨日今日ちょっと触ったくらいでは使いこなせない。どうしても練習は必要です。
――― ちなみにこういう機能があればいいな、という希望はありますか?
うーーん、機能というより説明書が欲しい!(笑)。説明書が付いていないから、分からないこともたくさんあって、100%使い切れていないんだよな〜。高頻度でアップデートしているから説明書が追いつかないのかもしれないですけど。そういうことなので、とにかくどんどん触ってみるに限ります。使うまでは、スマートウォッチというといろいろと用途に制限があったり、繊細な道具というイメージでしたが、このT-Rexシリーズで抱いていたイメージが変わりましたね。Ultraも本格的に使うことを楽しみにしています。
――― いいお話、聞くことができました。どうもありがとうございました!
山岳ガイド 水野隆信
https://guide-mizuno.com/profile/
楽しく安全を絶対テーマに、オールシーズンの登山、バリエーションクライミング、バックカントリースキーなどオールラウンドに少人数制でガイドを行なう。また数々のサポートメーカーとも契約し、関連ギアやウエアのテストなども担っている。
<有資格>
(社)日本山岳ガイド協会認定 登攀ガイド
(社)日本山岳ガイド協会認定 山岳ガイドステージII
(社)日本山岳ガイド協会認定 バックカントリースキーガイド ステージII
国際山岳救助連盟所属
写真=水野隆信/取材・文=福瀧智子